舞台『地図にない街~DOHENEKE-HEKISHIN~』について
この作品は、1999年に東京:アートスフィア(天王洲アイル)と、大阪:シアター・ドラマシティで行われたものです。
地球ゴージャス公演の、3作目になります。
原案・作は、藤永貴司さん。
DOHENEKE-HEKISHINの読みは、ドヘネケヘキシン。
岸谷さんが、劇団スーパー・エキセントリック・シアター時代にも同じテーマで、作品をつくられたことがあるそうです。
■キャスト
記憶の番人(きおくのばんにん):岸谷五朗さん
深見光(ふかみひかる):寺脇康文さん
調真実(しらべまさみ):山本未来さん
道徳寺倫理(どうとくじともみち?):山西道広さん
今肥雄太(いまごえゆうた):小野真一さん
・
・
・
■あらすじ(個人的超解釈ですので、ご注意ください)
舞台は、仮想現実の世界。
そこで出会った1組の男女。
「現実で会おう」と約束したものの、相手の男がやって来ません。
砂原泉(純名りささん)は、もう一度仮想現実の世界へ行き、男を捜します。
泉が訪れた場所は、西部の街。
”思い通りの自分”になった人たちが、そこでの生活を楽しんでいました。
そう。この世界では、性別も年齢も身分も関係なく、自分の思い通りの人間として生きることができるのです。
もしかすると約束した”彼”は、既に姿形を変えているかもしれません。
人探しをしている泉を気に掛ける、深見光(寺脇康文さん)。
泉は深見に”彼”のことを話しますが、知らないと答えられます。
その頃。
仮想現実の世界で起きた異変について、刑事の調真実(山本未来さん)と、道徳寺倫理(山西道広さん)が捜査をしていました。
取調室に、バーチャルリアリティーを管理する会社のエンジニア・今肥雄太(小野真一さん)を呼び、会社のパンフレットに乗っていない場所。
”地図にない街”について、尋ねます。
しかし、今肥にもわかりませんでした。
逆に今肥が、”地図にない街”について問うと、「そこへ行った者は、それ以降。
仮想現実の世界へ戻ることも、犯罪を犯すこともなくなった」と、調は答えます。
そして、その理由について知りたいと。
バーチャルリアリティーで、一体なにが起きているのか?
今肥と共に、調と道徳寺も、仮想現実の世界へアクセスします。
実際にその体験して、”地図にない街”の手がかりを掴もうというのです。
そこには、現実から逃れるように、バーチャルの世界で生きている人々がいました。
彼らは、”ココ”でしか生きられない苦しみを、抱えています。
調と道徳寺の正論によって、現実を改めて突きつけられた彼らの前に、扉が現れました。
”地図にない街”へと続く扉が―…。
扉は”記憶の図書館”へ通じていました。
一人ひとりの人間の記憶が、一冊の本になって存在する場所。
仮想現実とは、また別次元の空間です。
現実に耐えかねて訪れた人々に、”記憶の図書館”を管理する、記憶の番人(岸谷五朗さん)は、辛くて変えたい現実を変える術を教えます。
それは、記憶の番人から”意志”という名の鉛筆を受取り、自分の本の中身(記憶)を書き換えるというものでした。
そうすれば、現実の自分も変わるというのです。
人々は皆、我先にと記憶を書き換え、現実へと帰ってゆきました。
しかし。
記憶を書き換えた人間に待つものは、未来や理想を追い求めない、ただ淡々とした毎日。
目の前の苦しみから逃れた彼らは、二度と夢を追うことができなくなるのです。
深見と泉も、それぞれ現実では耐えられない苦しみを抱えていました。
深見は記憶の番人の言葉に流され、記憶を書き換えようとしますが、泉がそれを止めます。
約束をした”彼”が深見だと、気付いたからです。
深見も、約束をした”彼女”だとわかっていました。
ただ、現実では人と喋ることがままならなかったので、認めることができなかったのです。
けど、泉はそんな深見を「受け止める!」と宣言します。
泉の決意に、深見も覚悟を決め、過去を受け入れ共に生きる道を選択するのでした。
そしてもう一度、現実で会う約束をします。
同じ待ち合わせ場所に、同じ目印の赤い傘。
今度は現実で、しっかりと泉と深見は手を取り合うことができたのでした。
劇中に使われる曲が大好きでした!!
オープニングで泉(純名さん)が、”彼”を想って唄う歌が「The winner(takes it all)」(※曲名違っていたら、ごめんなさい)。
切なさと愛おしさがひしひしと伝わってきて、聴くたびに涙しました。
この歌は深見が「好きだ」と、言っていた曲なのだそうです。
劇中でも、何度か泉が歌う場面がありますが、たまりません!
感情がぐわっと、溢れる感じなのです。
一気に、胸が締め付けられます。
現実では男性なんだけど、仮想現実の世界ではショーガールという、アニー(はるな愛さん)が歌う、松田聖子さんの「あなたに逢いたくて~Missing You~」も好きでした。
アニー…いえ、はるなさんが聖子ちゃんぽく歌われるのがツボですし、さらにアニーが歌い始めると、寺脇さんや他の演者さんたちが現れて、周囲をクルクル踊り始めるのです!
それがとっても可愛らしくてっ!!
可愛らしすぎて、笑ってしまったほどでした!
今肥が仮想現実の世界について説明するときに流れるのは、サザンオールスターズの
「01MESSENGER ~電子狂の詩(うた)~」では、沢山の演者さんがダンスされます。
そこには、寺脇さんも混ざっておられてっ!!
すごくカッコイイダンスだったので、「寺脇さんが踊られていたら、どんなにいいか…」と思っていた矢先に、寺脇さんを見つけたので発狂しそうでした。
この3曲は、いつ聴いてもすぐに舞台『地図にない街~DOHENEKE-HEKISHIN~』の扉を開ける、鍵になってくれます!!
対人恐怖症の深見が、勇気を振り絞る瞬間がたまりませんでした!
深見と泉が出会ったときは、お互い別人の姿形を使っていました。
それが今回の街では、互いに現実世界と同じ姿形で出会います。
初対面の2人ですが、出会ってすぐになんとなく「あ、彼女だ」「あ、彼だ」と、気づくのです。
けれど、現実世界の深見は対人恐怖症なため、バーチャルリアリティーの外で彼女と会うということができません。
また、泉も過去に親友を傷つけたことがあり、そのため人との関わりが不得手です。
互いに気になりながらも、一歩を踏み出すのが怖くて、初対面のフリをします。
本当の自分を知られることで、嫌われてしまうのが怖いから。
記憶の番人から、記憶を書き換えられるように勧められた深見に、ようやく泉が自分が以前約束していた相手であると告白します。
そして、嘘を吐くような形になったことを謝るのですが、深見は柔らかく微笑むのです。
深海「顔や声が変わっても、どんなに嘘を吐いても。君は一人しか居ない。俺には君がわかるんだ―…」
>引用元:地球ゴージャス公演vol.3『地図にない街~DOHENEKE-HEKISHIN~』
この世で、たった一人。
君だけはわかる…姿形じゃない、心は変わらないから、と。
本当に本当に、惹かれあった2人なんだなぁ…と、この言葉を聴いてキュンとしました。
深見がこの言葉を口にするまで、泉との間にはいろんなことが起こります。
だけど、心で繋がっている2人なら、どんなことでも乗り越えられると思うのです!!
独りじゃ出せない力が、きっと出る!!
私はこの物語、ずっと深見に感情移入して観てました。
実は対人恐怖症で、現実では一言も喋れないところとか。
その原因になった事件とか。
深見の、苦しみや悲しみが流れ込んできて、心臓が痛かったです。
その分、傷を受け入れて進んでゆくことを選んだ時の喜びは、一入でした。
深海「今日がダメでも、明日誰かと話せるかもしれない。何のためらいもなく最初の一言が言えるかもしれない。そう思える限り、俺にだってまだ、生きている意味はある!」
>引用元:地球ゴージャス公演vol.3『地図にない街~DOHENEKE-HEKISHIN~』
弱くて、弱くて、叫びたいほど弱くて、ダメでも。
明日を思い描けるから…大きな瞳に、強い光が宿って。
力強く宣言する、深見の姿を見て、私。
滝のように、涙と鼻水が流れました。
まるで自分が、そう宣言したかのような感覚になって、泣いてしまったです。
「そうだよね!まだ大丈夫だよね!!」と。
今までがダメでも、これからがあるじゃないか!と。
フラつく足でも、まだ立てるんじゃないか…って。
小さくても、一歩踏み出せるんじゃないか…って。
心が、震えました。
仮想現実の世界から出て、深見は泉との待ち合わせ場所へ行くことができます。
けれど、現実世界に戻って来て、部屋の扉を開ける時。
深見には、どれほど勇気がいっただろう…。
家の扉を開ける時、何度開け閉めして、自分を奮い立たせただろう。
「大丈夫、大丈夫」
そう唱えながら、一歩づつ歩いてきただろうと思うと、また号泣です!!
すっごい怖いですもん。
生身の自分で。
痛みを伴う、この世界で。
立ち止まっていた足を、再び動かすのは。
約束の場所へ。
約束の赤い傘さして。
立っている深見に、泉さんは微笑みます。
泉「入れて、くれますか?」
深海「……あ、あかい…傘で、…よければ…」
>引用元:地球ゴージャス公演vol.3『地図にない街~DOHENEKE-HEKISHIN~』
泉が、深見の元へ行き。
深見がそっと傘を傾けて、泉を入れてあげる。
よかったねぇっ!!
おめでとぉうっ!!
よくがんばった!!
ホント!
がんばったよ!!
手が千切れるほどの拍手を2人へ…送りながら、また号泣です!
深見が一言、言えたことにも感動してしまって。
ちょっとためらう、空気。
震える声。
それから。それから…。
「あう゛あう゛」と訳のわからない言葉を口にしながら、涙、涙です。
この舞台を観て以来。
私は赤い傘を見ると、自然と深見の台詞が自然とリピートされるようになりました。
独りつぶやいて、それから胸を熱くする。
そうだ。
私も頑張るよ。
深見の勇気を、忘れないよ。と、思うのです。
※役名の敬称は略させていただています